妊娠・不妊に関する過去最大規模の国際意識調査
各国間で妊娠願望や不妊の知識レベルに大きな格差が
2010年6月末、イタリアのローマで国際学会ESHRE(エシュレ:欧州ヒト生殖医学会)が開催されました。今回から、この妊活サポーターの編集・執筆を担当させていただくことになった筆者もプレスの一人としてこの学会に参加。キーノートをはじめとする妊娠・不妊治療を取り巻く世界の動向について、取材する機会を得ました。
ESHREでは、卵巣の一部を凍結保存し、将来移殖することによって、女性の妊娠力(妊孕能:にんようのう)を温存させるという日本人研究者らによる報告や、欧州での生殖補助医療に関する現状報告など、約70のセッションが発表されました。
中でも多くの生殖医療の専門家たちの関心を集めたものの一つが、メルクセローノと英国のカーディフ大学が連携して調査した、妊娠を望むカップルの意思決定に至る過程を理解するための国際意識調査「スターティング・ファミリーズ」でした。
これは今年2月、妊活.netをご覧いただいている皆さんにも調査の協力をお願いした「妊娠・出産に対する国際意識調査」の結果を元に作成されたもので、日本を含む合計18カ国がこの調査に協力。各国データの集計・分析を担当した英国カーディフ大学がまとめたレポートがこの学会で発表されました。
調査回答者は、妊娠を希望するカップル1万45人(女性8355人、男性1690人)。妊娠・不妊という領域を扱った国際意識調査で、過去最大規模のものです。平均年齢31.8歳、4分の3以上が都市部に在住
回答者のプロフィールは平均年齢31.8歳。53.7%が大学教育を受けており、75.8%が都市部に在住するカップルでした。 調査をサポートしたメルクセローノ幹部のバラット・テワリー氏に取材したところ、「現在、世界レベルで不妊に悩むカップルは全体の約10%。不妊症を医師に相談するカップルは 56%、実際に治療に入るのは22%に留まっている」とのこと。「一体何が治療の妨げになっているのか、今回の調査で各国のカップルたちの妊娠出産、不妊治療への意思決定の過程を探ることで、不妊治療のサポートをより推進できると考えた」と、テワリー氏は調査の目的について話します。
調査の結果、浮かび上がってきたのは、子供を持つ願望や、不妊治療への取り組み意向、不妊に関する知識レベルには、各国間でかなり大きな差があるということでした。例えば、子供を持ちたいという願望のスコアが高かったのは、米国、デンマーク、トルコ、カナダなどで、逆にこのスコアが最も低かったのが日本。ロシア、インドや中国も比較的低いスコアでした。不妊治療への取り組み意向については、メキシコ、デンマーク、ブラジル、スペインなどでスコアが高く、日本やドイツは低スコアという結果になりました。
また、国を問わず、女性と異なり、男性は個人の願望として子供を望むというよりも、社会的義務を果たす目的で父親になることを望む傾向があること、女性に比べると子供が欲しい、親になりたいという願望が弱い反面、社会的プレッシャーは男性の方が感じていることなど、男女における意識の違いも明らかになりました。少子化傾向反映し、親になることに消極的な日本
気になる日本の傾向はというと、深刻な少子化傾向を色濃く反映する結果になったといわざるを得ません。というのも、「子供を持ちたいという願望」だけでなく、「親になる必要性(充実した人生に子供が重要な位置を占めるという意味)」の項目でも、日本は18カ国中、最も低いスコアだったからです(グラフ参照)。
こうした日本のスコアに対して、この調査の共同リーダーであるカーディフ大学のジャッキー・ボイバン教授も、「ほかの先進国が押しなべて子供を持ちたい願望のスコアが高かったのに比べて、日本がここまで、スコアが低いという結果に驚いた。今回の調査対象国の中では、インドや中国、ロシアなどと同様に、特異的なスコアを示した国の一つと見ている」とコメント。
子供が欲しいと思う背景の一つに、「子供を持つことによる社会的なステータスの重要性」について問いかけた質問がありました。この問では、日本はインド、中国に続く3番目に高いスコアを示しており、「社会的な地位を安定的なものにするためには、子供を持つべきなのではないか」と、社会からのプレッシャーを感じている日本のカップルたちの複雑な思いが見え隠れします。不妊症の知識が少なく、オープンに相談をしない国民性が治療のネックに
不妊症に関する正しい知識を持っているかどうかは、子供を持つことに大きく関係する要素です。この項目でも、残念ながら日本はトルコ、中国とともに最も知識スコアが低いグループに入りました。
この知識には、不妊症のリスクに関する情報も含まれています。例えば、女性の妊娠率は30代半ばを境に下がりますが、「40代の女性は30代の女性と同じ確率で妊娠できる」と誤解している人は全体の半数ほどいて、「女性の肥満が妊娠の可能性を下げる」というリスクに関しても、知っていたのは全体で3割のみ。日本では2割の認識度にとどまっていました。
もう一つ、子供を持つことに大きく関わる要素として、不妊とわかったとき、家族や友人に対してオープンに相談をしやすいかどうか、という国民性の要因があります(グラフ参照)。日本はこの項目でも、最も低いスコアになりました。医学的助言を求める相手や場所、治療の選択肢に関する知識レベルも、インド、中国、ロシアと並び、日本は低さが目立ちます。
これらの結果というべきか、不妊治療への取り組み意向についても、日本は、他国に抜きん出て最も低いスコアになりました(グラフ参照)。
日本のこれらのスコアから、不妊症や治療に関する知識が他国に比べてまだまだ浸透していないことが読み取れます。「知識の少なさに加え、不妊について、家族や知人にオープンに打ち明けたり、相談しにくい国民性が、結果として、不妊治療への取り組み意欲の低さにもつながっていると見られる。出生率改善のためには、こうした問題を改善していく必要があるのではないか」とボイバン教授も指摘します。 国際比較によって明らかになった日本のカップルたちの妊娠・不妊に関する意識─。皆さんは、どのような感想をもたれましたか?
不妊症のリスクは、今回ご紹介した加齢や肥満だけではありません。そろそろこどもが欲しいと考えているならば、まずはこうした情報を積極的に集めて体をケアしていくこと、健康状態を把握するために医療機関に早めに受診することなどが、妊活の第一歩となるのかもしれません。
[10.10.20 Update]
新村直子 (しんむら なおこ)
フリーランスエディター&ライター、健康管理士一般指導員
慶應義塾大学卒業後、日経BP社に約25年勤務。飲食店経営者向け経営誌『日経レストラン』副編集長、産学連携イベント『イノベーション・ジャパン大学見本市』事務局長、女性向け健康情報誌『日経ヘルス』副編集長を経て独立。現在は、不妊症、漢方・アロマなど女性の医療や病院経営、地域活性化などをテーマに取材。