妊娠・出産を控えた女性たちを悩ませる「あいまいさ」

生殖心理カウンセラーの平山史朗先生にご登場いただいている「妊活サポーター」。第四回目は、妊娠・出産を望んでいる人がカウンセラーに相談に来るケースについて考えてみたいと思います。もしかしたら、この記事を読んでいる中にも、同じ悩みを抱えて一人で悩んでいる人がいるかもしれません。自分だったら・・・ということを考えながら参考にして頂きたく、平山先生に具体的にお話し頂きました。

苦しんでいる思い込みを外し、別の選択肢を提示するのもカウンセリング

― カウンセラーを訪ねる方たちは、様々な迷いや悩みを抱えています。特に妊娠・出産に関わることは、自分だけで解決できないにも関わらず、人には言い出しにくい。また答えを聞いても、どうすることもできない場合もある。そんなジレンマを持って、カウンセリングの扉をノックするのです。

平山先生:皆さん、いろいろなことをおっしゃいます。しかし、カウンセリングにいらっしゃる方の訴えは、一言でいえば、「これから私はどうしたらいいでしょう」ということ。この言葉には、それぞれの方のバックボーンがあり、伝えたいことの意味も異なります。妊娠・出産をしたほうがいいのか、あるいはできるのか。できたとしてそれが「正解」なのか、できないとしたら自分に非があるのではないだろうか。漠然とした不安や悩みの中にいるのです。ですので、その方たちと一緒に、その中身を明確にしながらカウンセリングを進めていくことになります。

― 「本当は子どもが欲しいけれど、妊娠・出産ができるかどうか不安」と、「どうしたいかは明確だけれどその過程が不安」という人もいますし、「子どもを持つべきかどうかわからない」という人もいます。つまり「自分なりの答えや希望」を持っている人と持っていない人がいるのです。

平山先生:子どもを持ちたいという「答え」を持っている人の中には、「子どもを産んで育てることこそが、自分の人生」と思い込んでいる人もいます。そういう人は、「本当に子どもを持てるのだろうか」「もしダメだったらどうしよう」という不安は大きくなりがちです。
私は不妊治療施設に勤務していますが、そういう方たちが「絶対子どもを」と思ってしまうと、体だけでなく精神的にも苦しくなってしまいます。ご自身の希望を十分に理解した上で、本人の人生を幸せに生きるためにという視点から、子どもを持たなくても幸せに生きていくという選択肢を提示しながら、でも今治療をがんばっている気持ちも大切にしながら、これから進む道を考えていくことになります。

情報に振り回されないようにするためのクリティカル・シンキング

― 悩んでいる人たちは、その悩みから解放されたいという思いから、いろいろなものに頼りたくなります。その一つが情報。ネットワーク社会である現代、誰もが簡単に情報にアクセスすることができます。何かいい情報があれば、「信じたい」「頼りにしたい」という気持ちはあります。医療に関することでも、「これをやって良かった」「効果があった」と聞けば信じたくなるものです。

平山先生:例えば、不妊治療をされている方で、「治療をやめたら妊娠した」と言う方がいます。そんな話を聞けば、治療中の方たちは自分もやめてみようかなと思ってしまうことがあります。実際は、治療をやめて妊娠した方というのは、もしかすると治療しなくても妊娠した可能性が高い方だったかもしれないし、治療を受けたおかげで生理周期が整い妊娠しやすくなっていたのかもしれないのですが、治療をやめた「から」妊娠したと思いこんでしまうものです。
ですから私たちカウンセラーは、そういう情報の是非を問うのではなく、そういう情報を鵜呑みにしてしまう方の心に焦点を当てるのです。なぜ鵜呑みにしてしまうのか、どんな悩みで行き詰っているのか。自分の考え方のクセに気づかない限り、情報に振り回され続けてしまうのです。

― 時には、科学的・医学的に根拠のないことでも信じてしまうことがあります。むしろ、非科学的だからこそ信じたくなることもあります。子どもを持つのが正しいのか、このままいけば確実に妊娠するのか、何が正しいかがわからない中で自分の選択をしていかなくてはならない。その不確定さにますます苦しむことになりがちです。

平山先生:そんな時、カウンセラーを訪ねてほしいのです。その情報をあなたはどう受け止めるのか、その情報に従うことはあなたにとっていい選択なのか、それを一緒に考えていきたいのです。
本人が鵜呑みにしがちなことに対して、批評的な視点(クリティカル・シンキング)を持ち込むことが必要なのです。否定するのではなく、あくまでも客観的に、「本当にそうかな」「そうでない可能性はないかな」と一旦間をおいて考えると、本当に必要なことを吟味して選べるようなり、振り回されることが少なくなります。

「あいまいさ耐性」を育て、今の時代を行き抜こう

― 妊娠・出産というのは、どれだけ医学が進歩しても100%はありません。子どもが欲しいと思ってもできないかもしれないし、欲しくないと思ってもできるかもしれない。そんな不確実性の中で、考えたり決定したりしなければならないやるせなさを含む領域なのです。はっきりしたことが何もないという「あいまいさ」をどう生きるか、もしかしたらそれが最も悩むところなのかもしれません。

平山先生:実は、その「あいまいさ」は妊娠問題だけに限りません。今の時代、世の中ほとんどのことは割り切れない、あいまいな時代です。そのあいまいさに耐えられない私たちは、白か黒かはっきりさせたくなります。もちろん白黒はっきりさせた方がスッキリして楽にはなりますが、はっきりさせることでこぼれおちてしまうものもある。人間の感情や愛情などは、決して白黒つけられるものではないのです。
今、私たちに必要なのは、世の中はあいまいであるということを認識した上で生きていく「あいまいさ耐性」なのではないでしょうか。白黒つけないと気が済まない性格の人は、苦しいことでしょう。でも、そのままでいる方が、これから先もっと苦しくなるはずです。今を生き抜くためのスキルとしての「あいまいさ耐性」。それはすなわち、現実としっかり向き合う力なのです。

― 確かに、世の中にはあいまいなことが多くあります。ですが、自分がその「あいまいさ」に直面したとき、あいまいなままでいることは、問題から目を背けているのではと考えてしまいます。

平山先生:必ずしもすべての物事に正解が用意されているわけではありません。状況によって、人によって、正解が変わることもあります。それが、私たちが向き合うべき「現実」の姿なのではないでしょうか。 特に世の中のあいまいさに加え、妊娠・出産というあいまいさを生きようとしている女性たちは、二重にあいまいな世界に飛び込むことになります。でもそこではっきりしたものを求めるよりも、あいまいさを受け止めた上で、どう自分らしく生きていくのか、自分らしい選択をするかの方が大切だと思うのです。そして、そういう生き方を望む女性たちのサポートをするのがカウンセリングだと思っています。

― 確かなことが何もないからこそ、私たちは悩んだり迷ったりします。そして、何らかの「答え」を探そうとします。でも、その「答え」も実は不確かであり、状況によって変わることもあります。「不変的な答え」を探すのではなく、どんな状況でも自分らしくあり続ける、柔軟な自分を手に入れること、それが「あいまいさ耐性」なのかもしれません。それは、今の日本人すべてに共通することなのだと実感しました。

次回は、「働く女性と妊娠」について、平山先生にお話し頂きます。

※次回の更新は、10月を予定しています。

[11.09.30 Update]

平山史朗(ひらやましろう)

平山史朗 (ひらやま しろう)

東京HARTクリニック 生殖心理カウンセラー・臨床心理士。
1993年広島大学教育学部心理学科卒。広島HARTクリニックで不妊症専門の心理カウンセラーとして勤務後、サンディエゴのCSPP(California School of Professional Psychology)のThe Center for Reproductive Psychology(生殖心理学センター)にて研修。2002年7月より東京HARTクリニックの常勤生殖心理カウンセラーとして勤務。日本生殖医療心理カウンセリング研究会(現学会)副代表世話人(現副理事長)として発足に携わる。