生殖心理カウンセラーの平山史朗先生にご登場いただいている「妊活サポーター」。第六回目は、パートナーとのコミュニケーションについて考えてみたいと思います。ちょっとしたすれ違いも、実は男女のコミュニケーションスタイルの違いによるもの。具体的なケースも交えて、平山先生にお話し頂きました。
日本では「パートナーとの関係」が表面化しにくい
― 結婚している夫婦にとって、妊娠・出産というのは女性(妻)だけの問題ではありません。子供ができるということは家族が増えるということであり、そこには夫の理解と協力が欠かせません。また子供ができると「父親」「母親」としての役割も担うわけで、夫婦(両親)の良好な関係を維持したいものです。
平山先生:もちろんそうですね。ですが特に日本の場合は、子供ができると「夫婦(パートナー)の関係」というのが成立しにくいのです。それまでの「男と女」「夫と妻」という二人の関係が、子供ができることで「お父さんとお母さん」という関係になり、子供を含んだ三角形が成立するからです。夫婦の間にどんな問題があっても、子供に注目していればとりあえず三角形は保たれる。「子はかすがい」と言いますが、子供がいることで離婚せずに済んでいる夫婦も少なくありません。言い換えれば、夫婦の問題に意識を向ける必要がなくなってくるということ。それだけ子供への関心が高くなり、いろいろなしわ寄せも子供にいってしまうということにもなります。
― 子供がいるから別れないというのは、本当に子供のためになっているかということですね。子供のためと言いつつ、夫婦の問題から目を逸らしてしまう。解決すべき問題と向き合わなくなっている。表面的には問題がなさそうに見えるけれど、実は問題を抑え込んでしまっているということがありうるわけですね。
平山先生:そうなんです。子供がいるから別れないだけで、問題がないというわけではない。夫婦の問題に向き合っていないだけともいえます。
その分、子供が出来ずに不妊で悩んでいるご夫婦は、夫婦間の問題を見ざるをえないのです。子供がいないから三角形が作れない、常に二者関係しかないので、そこがうまくいかなくなれば別れることになってしまう。それを「子供がいないせいだ」と思い、「子供が生まれれば、夫婦関係もうまくいくはずだ」と考えることで関係を安定させようと考える人もいます。本当は夫婦の関係をきちんと見つめることが大切なのですが、なかなか自分たちではそれができないのです。
男女ではコミュニケーションスタイルが違うことを知る
― カウンセリングでは、夫婦の問題が取り上げられることもあります。妊娠・出産となると、互いの意見が分かれたりストレートな話し合いがしにくいこともあり、カウンセラーに相談することも多いようです。
平山先生:パートナーとのコミュニケーションが大事というのは皆さんわかってはいるのですが、「コミュニケーションスキル」を持っていないというのが根本的な問題なのです。もともとは愛情関係で結ばれている二人なのですが、だからこそ「言わなくてもわかってくれるはず」「私の気持ちを察してくれて当然」という期待が大きすぎてしまう。愛情があっても、気持ちを伝えるためのコミュニケーションは必要ですし、自分とは違う他者にわかってもらうためのスキルは必要なのです。
でも、「近しい関係だからスキルなんて必要ない」と思ってしまうところが落とし穴なんですね。
― 妻は「ウチの夫はぜんぜん話を聞いてくれない」と言い、夫は「いつもちゃんと聞いている」と言うように、コミュニケーションに関する小さなすれ違いは日々生まれます。そのすれ違いの積み重ねが大きな問題に発展してしまうのですから、できるかぎり小さいうちに解決しておきたいもの。では、すれ違いはどこから生まれてくるのか。それは、よくある夫婦の会話を見るとわかります。
平山先生:例えば、夫が仕事から帰ってきて妻が話をするとします。「今日、○○があってね・・・」と妻が話すと、夫は新聞を読みながら「うん、うん」と聞いています。妻は「ちゃんと聞いてよ」と言うのですが、夫は「聞いてるよ」と言う。どちらも真実なのですが、妻にとっては目を合わせて相槌を打ちながら聞くことが「聞いている」ということ。夫にとっては声が耳に届いているから「聞いている」。つまりコミュニケーションスタイルが違うということ。そのスタイルの違いを知ることが出発点なのです。
― 聞いているかいないかではなく、コミュニケーションスタイルの違いがすれ違いを生んでしまう。まずはそれを互いに理解した上で、どうするかを考えることが必要ということですね。
平山先生:そうなんです。例えば不妊治療をしている夫婦で、治療がうまくいかなかったとき、妻は落ち込んでいるのですが夫はテレビを見て笑っている。妻からしたら「この人は何もわかっていない」ということになるのですが、夫からしたら「そんなに深刻に考えずに、また次にがんばろうよ」という気持ちなんですね。でも、それが伝わらずにケンカになってしまう。
これは、相手に対する理解や思いやりの問題ではなく、物事への感じ方の違いなのです。感じ方や表現の仕方が夫(男性)と妻(女性)では異なるのです。ここを理解してもらった上で、二人にとってどういうコミュニケーションが必要なのかを考えていくのです。
カップルコミュニケーションを学ぶことの必要性
― 互いに「相手は自分と違う」ということを知り、その「違う相手」とどう関係を紡いでいくかを考えていくということなのですね。
平山先生:「わかって当然」「察しているはず」というのは無理なこと。ものすごくベーシックなところから解決していかないと、からまった糸はほどけないのです。自分とは違うコミュニケーションスタイルを持つ相手に、どうしたらわかってもらえるか、わかってもらうためにどんな伝え方をするといいのか、そういうカップルコミュニケーションを学ぶというのが必要だと思います。日本ではなかなかその機会がないので、私はカウンセリングでそれを伝えています。
― 先ほどの「聞いている、聞いていない」という会話など、一見すると日常的なことで小さいことと考えがちですが、「違い」というのはそういうところに典型的に現れてくるのですね。
平山先生:夫婦としてのどうありたいかという「遠い未来」を考えることはもちろん大切ですが、それと同時に日々の会話という「近い未来」も大切。近い未来を解決しない限り、遠い未来を描けないですからね。両方を見ていかなくては、カップルカウンセリングは成立しません。
― 「夫婦だから同じ」という考えからスタートすると、「違い」が起こったときに問題化してしまいますが、予め「違い」を知っておけばそのための努力もできますし、「同じ」が生まれたときの喜びも大きくなります。
男女のコミュニケーションスタイルや感じ方・伝え方の違いを知ることから始めてみると、関係が変わるきっかけが得られるかもしれません。もし自分たちにまだそれができていないと感じるならば、一度カウンセリングの扉をノックするのもいいでしょう。二人で問題意識を共有することで、新たな絆が生まれることもあるはずです。
次回は、妊娠・出産に大きな影響を与える母親との関係についてお話し頂きます。
※次回の更新は、2月を予定しています。
[12.01.30 Update]
平山史朗 (ひらやま しろう)
東京HARTクリニック 生殖心理カウンセラー・臨床心理士。
1993年広島大学教育学部心理学科卒。広島HARTクリニックで不妊症専門の心理カウンセラーとして勤務後、サンディエゴのCSPP(California School of Professional Psychology)のThe Center for Reproductive Psychology(生殖心理学センター)にて研修。2002年7月より東京HARTクリニックの常勤生殖心理カウンセラーとして勤務。日本生殖医療心理カウンセリング研究会(現学会)副代表世話人(現副理事長)として発足に携わる。